スポット型空間トランスクリプトーム解析
スポット型空間トランスクリプトーム解析(Visium/Visium HD*1)とは
組織上の微小領域(既定のスポット)ごとに、空間情報を保持したまま網羅的な遺伝子発現解析が可能です。基板上に配置したスポットごとに転写産物(RNA)の種類と量を網羅的に計測することで、個々の遺伝子が発現する組織内の位置と量を検出することができます。そのため、シングルセルRNA-seqのような1細胞遺伝子発現解析法では失われていた空間的な位置情報を保ちつつ、約2万遺伝子に及ぶ網羅的な遺伝子発現解析を実施することが可能です。
組織学的特徴と発現プロファイルを対比することや、組織学的には明瞭に区別しにくい領域を発現プロファイルの類似度によって分類・特徴付けることができます。また、シングルセルトランスクリプトームデータとの統合解析により、シングルセルレベルの空間トランスクリプトーム解析や、組織内の空間配置を考慮した細胞間相互作用の推定および細胞系譜の追跡を行うことも可能です。
空間オミクス解析の1種である空間トランスクリプトーム解析法は、3つのタイプに分けられます(詳細はこちら)。手法により得られる結果の空間解像度や検出遺伝子数は様々であるため、研究目的に合わせて最適な手法を選択することが重要です。
用途
- 網羅的な(約2万遺伝子の)発現情報を基にした組織内の各領域の分類および特徴付け
- 組織内の各領域で特徴的に発現する遺伝子の同定(バイオマーカーの探索)
- 組織内の位置情報を考慮した細胞間相互作用(細胞ペア、リガンド-受容体、パスウェイ)推定
- 組織内の位置情報を考慮したpseudotime解析による細胞系譜(分化経路)推定
- 組織内の位置情報を考慮したRNA velocity解析による細胞動態の評価
※関連する解析サービス
このような方に
- 既存のシングルセル解析では細胞や発現遺伝子の位置情報が得られずお悩みの方
- 参考論文と同じような解析を自身のサンプルで実施したい方
- 自身の研究目的に最適な実験デザインの検討から始めたい方
- 簡易ソフトでは希望の解析ができず、目的の結果の取得にお困りの方
- 空間トランスクリプトームと1細胞トランスクリプトームデータの統合解析をご希望の方
- 論文や公共データベースで公開されているデータを用いた解析をご希望の方
当社の特徴
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空間トランスクリプトーム解析法の種類
空間オミックス解析の1種である空間トランスクリプトーム解析法は、3つのタイプに大別されます。手法ごとに得られる結果が大きく異なるため、研究目的に合わせて最適な手法を選択することが重要となります。
①関心領域(ROI)タイプ
レーザーやUVなどで選択した組織切片上の関心領域について、通常のRNA-seq(トランスクリプトーム)解析を実施する手法です。病変部や腫瘍部などの関心領域における、バルク(集団の平均値)の網羅的な発現情報を取得可能です。しかしながら、個々の細胞の発現情報や空間的な位置情報を得ることはできません。
②スポットタイプ >
基盤上に配置したスポット単位で、網羅的な遺伝子発現解析を実施する手法です。空間的な位置情報を保持しながら遺伝子発現解析が可能です。空間分解能の違いにより2種類のタイプに分けられます。ひとつは、スポットのサイズやスポット間の距離により、1スポットに数十個程度の細胞が含まれたり、解析されない細胞が一定数生じるタイプです。もうひとつは、細胞とほぼ同サイズのスポットで、スポット間の隙間のない高解像度タイプです。これらのタイプは研究目的や予算により適切な使い分けが必要です。
③シングルセルタイプ >
組織切片上のRNAを1分子ごとに検出し、細胞境界情報と併せて解析することで、シングルセルまたはサブセル(1細胞以下)レベルで、トランスクリプトーム解析を実施する手法です。個々の遺伝子が発現する位置(組織内の細胞や細胞内局在)と量を計測する遺伝子発現解析ができます。検出遺伝子数については、数百~数千遺伝子と網羅性に関してはまだ課題もあります。
Visium HD*1の空間分解能について
解析例1 腎臓組織における各領域の分類と特徴的に発現する遺伝子の検出
マウス腎臓組織切片より取得したスポット(8um四方)ごとの高解像度な空間トランスクリプトームデータ(Visium HDデータ*2)を用いて、各スポットを発現プロファイルの類似度に基づいて分類し、各クラスタで特徴的に発現する遺伝子を検出しました。
HE染色像とスポットごとに取得した発現情報との比較
HE染色像とスポットごとに取得した発現情報との比較
マウス腎臓組織は組織学的に、Cortex(皮質)、Outer medulla(外髄質)、Inner medulla(内髄質)の3つの領域で構成されていることが知られています(左図)。スポットごとに発現情報を取得した組織切片上で、各領域での発現が知られている遺伝子の発現分布を表示しました(右図)。
スポットのクラスタリング結果と各スポットに特徴的な遺伝子発現
スポットのクラスタリング結果と各スポットに特徴的な遺伝子発現
各スポットの遺伝子発現プロファイルを基に各スポットをクラスタリングし、その結果をUMAPにより二次元上にプロットしました(左図)。1つの点が1つのスポットを示します。各クラスタに特徴的な遺伝子の発現量と発現割合をドットプロットで図示しました(右図)。縦軸は遺伝子、横軸は各クラスタに対応しています。発現量をドットの色の濃淡で、発現しているスポットの割合をドットの大きさで示しました。
各クラスタの発現変動遺伝子(Heatmap)
各クラスタの発現変動遺伝子(Heatmap)
各クラスタで特徴的な遺伝子をヒートマップを用いて可視化しました。縦軸は遺伝子、横軸は各クラスタに対応しています。各クラスタ内には、そのクラスタに属するスポット1つひとつが表されています。発現量が多い遺伝子は赤色、少ないものは青色で示しました。
各スポットの組織切片像へのマッピング結果
各スポットの組織切片像へのマッピング結果
各スポットをクラスタリング結果に基づいて色分けし、位置情報に従って組織切片像に割り当てました。
各クラスタの組織切片像へのマッピング(クラスタ毎)
各クラスタの組織切片像へのマッピング(クラスタ毎)
各クラスタを組織切片像に割り当てた結果を、クラスタ毎に表示しました。発現プロファイルやその他の解析結果を基に、各クラスタに属するスポットで主要な細胞タイプを推定しました。推定した細胞タイプは、組織学的に知られている領域と類似した分布を示していました。
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現分布
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現分布
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現量を、ヒートマップで表示しました。発現量が高いスポットほど赤色で表示しました。
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現分布(Violin plot)
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現分布(Violin plot)
各クラスタに特徴的な遺伝子の発現量をバイオリンプロットで表示しました。縦軸は各遺伝子の発現量、横軸はクラスタ、バイオリン型の幅は密度分布(プロットされたスポットの密度)を示しています。
このようにVisium HDで取得した高解像度で網羅的な発現情報に基づくスポットの分類結果は、組織学的な特徴を反映し、かつ各領域に特徴的に発現する遺伝子を同定することが可能です。
解析例2 肝細胞がんにおける線維化領域および免疫抑制シグナル伝達関連遺伝子の検出
ヒト肝細胞がん病理切片より取得したスポット型空間トランスクリプトームデータ(Visiumデータ)を用いて、発現プロファイルを基に各スポットを分類し、線維化領域において特徴的に発現する遺伝子の検出を行いました。
がん組織のHE染色像と各スポットの発現プロファイルに基づいた各領域の分類結果
がん組織のHE染色像と各スポットの発現プロファイルに基づいた各領域の分類結果
各スポットの網羅的な発現情報(発現プロファイル)に基づいてスポットをクラスタリングし、各スポットの位置情報に従ってHE染色像(左図)に各スポットを割り当てると、形態学的特徴や空間的配置との対応が見られました(右図)。HE染色像から判断した線維化領域を▲で示しています。クラスタ1(C1)は、 HE染色像から判断した線維化領域に対応していました。
スポットのクラスタリング結果と各スポットに特徴的な遺伝子発現
スポットのクラスタリング結果と各スポットに特徴的な遺伝子発現
各スポットのクラスタリング結果をUMAPにより二次元上にプロットしました(左図)。1つの点が1つのスポットを示します。各点には各スポットの発現プロファイルが紐づいており、発現が類似しているほど各点は基本的には近くに配置されます。各クラスタで特徴的な遺伝子の発現量と発現割合をドットプロットで図示しました(右図)。縦軸は遺伝子、横軸は各クラスタに対応しています。遺伝子の発現量をドットの色の濃淡で、遺伝子を発現しているスポットの割合をドットの大きさで示しました。
線維化領域に特徴的な遺伝子の発現
線維化領域に特徴的な遺伝子の発現
病理切片上のクラスタ1(C1:線維化領域)を茶色に表示しました(左図)。 HE染色像から判断した線維化領域を▲で示しています。また、線維化領域で特徴的に発現する遺伝子の発現量をバイオリンプロットで図示しました(右図)。線維化に関連する遺伝子が、C1で特徴的に発現していました。尚、C6は平滑筋細胞が多く存在する領域と推定され、線維化領域とは区別しています。
TGFβシグナル伝達関連遺伝子の発現分布
TGFβシグナル伝達関連遺伝子の発現分布
線維化に関与することが知られているTGFβシグナルの関連遺伝子の発現量を、HE染色像上にヒートマップで示しました。いずれの遺伝子も、C1で特徴的に発現していました。また、 TGFβは免疫抑制性サイトカインとしてもよく知られています。そこで次に、その他の免疫抑制シグナル伝達経路についても検討しました。
免疫抑制シグナル伝達関連遺伝子群の発現分布(スコアリング表示)
免疫抑制シグナル伝達関連遺伝子群の発現分布(スコアリング表示)
腫瘍には、制御性T細胞(Treg)や腫瘍関連マクロファージなどの免疫抑制に関与する細胞が存在し、抗腫瘍免疫応答の抑制に関与することが知られています。免疫抑制に関わるシグナル伝達経路に関連する遺伝子群の発現量をスコアリングして、ヒートマップで示しました。スコアが高い(スポットが赤色)ほど、各シグナル伝達関連遺伝子群の発現量が高いことを示します。線維化領域(▲)では、免疫抑制に関わるシグナル伝達経路が活性化していると考えられます。
このように、スポットタイプの空間トランスクリプトーム解析では、高い空間分解能を持つ網羅的な発現プロファイルを取得することができます。空間情報に紐づけられた遺伝子発現解析により、組織学的特徴と発現プロファイルを対比することや、組織学的には明瞭に分類しにくい領域を発現プロファイルによって分類し特徴付けることが可能となります。
さらにVisium HDでは、本解析で使用したVisiumの解像度(スポット径55µm) に比べ、より高解像度(隣接した8µm四方のスポット)な解析結果が取得可能です。
解析フロー
ハイブリダイゼーション
ライブラリ調製
シーケンシング 画像・シーケンスデータ 発現量推定
クラスタリング
発現変動遺伝子抽出
組織切片へのマッピング
高次解析 解析結果
受入物
① 組織切片から解析 | ② 画像・シーケンスデータから解析 | |
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受入物 |
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生物種 | ヒトまたはマウス | ヒトまたはマウス |
受入条件 |
【 FFPE切片の場合 】
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その他 |
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以下の情報をお知らせください
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解析条件
- 検出遺伝子数 : ヒト18,000遺伝子以上、マウス21,000遺伝子以上
- データ解析 : 研究目的に沿った最適な手法で実施します
納品物
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①組織切片から解析
- 解析報告書
- シーケンスデータ
- HE染色画像データ
- クラスタリング結果
- クラスタリング結果の空間分布画像データ
- 各遺伝子の発現分布画像データ(クラスタリング結果上の分布、空間分布)
- 各種遺伝子リストなど
-
②画像・シーケンスデータから解析
- 解析結果報告書
- クラスタリング結果
- クラスタリング結果の空間分布画像データ
- 各遺伝子の発現分布画像データ(クラスタリング結果上の分布、空間分布)
- 各種遺伝子リストなど
※実際の納品物はご依頼内容により変わります。
価格・納期
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参考文献
Giraud et al. “TREM1+ regulatory myeloid cells expand in steatohepatitis-1 HCC and associate with poor prognosis and therapeutic resistance to immune checkpoint blockade” BioRxiv. doi: https://doi.org/10.1101/2022.11.09.515839
*1 10x Genomics社の商品名または登録商標です。
*2 10X Genomics社より計測データをご提供頂きました。