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当社ジエンブルのメンバーが綴る技術系ブログ
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2026.07.03

空間解析とは?

空間解析の概念と技術的進展

医学・生物学研究における空間解析とは、生体中に存在する機能分子と空間情報を紐付けた解析です。特定の構造を染め分けて顕微鏡観察を行う古典的な形態学・病理学的な手法から、網羅的な発現情報を空間情報と紐付けようとする空間トランスクリプトミクスや空間プロテオミクスなど最新の空間オミクス手法までを包括する極めて広範な概念です。空間解析技術は、空間分解能、解析対象分子の種類と網羅性向上、分子機能の可視化などの点で進歩を続けてきましたが、近年、網羅性向上の分野で非常に大きな進歩が起きています。

非網羅的空間解析(古典的空間解析)

空間解析を行う意義は、長い間、主に機能分子の局在から分子の細胞/組織レベルの機能を推定するところにありました。電子顕微鏡レベルの分解能(サブnm~)では、特定の機能分子が機能分子複合体上に存在するか?を直接的に観察できます。光学顕微鏡レベルの分解能(200nm程度~)では、機能分子が局在する細胞内小器官や細胞内の領域を明らかにすることで、どんな細胞機能に関係しているかが推定できます。この30年ほどの間には蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)を利用して機能分子複合体の形成(正確には機能分子同士の接近)や機能分子の構造変化を検出したり、超解像顕微鏡により光学分解能の限界を突破するなどの進歩が見られています。これらの空間解析技術は高い空間分解能を持っていますが、一つのサンプルで同時に解析可能な機能分子の種類は限定されています。こうした空間解析技術や各種の古典的な染色法を駆使して得られた、限られた種類の機能分子の情報から細胞の状態を総合的に推定して仮説を構築する部分は研究者個人の資質や経験に大きく依存していました。

網羅的空間解析(空間オミクス解析)

ごく最近、1細胞レベル程度の比較的粗い空間分解能の世界で起こった進歩により大きな変化がもたらされました。その進歩とは、各種のオミクス解析、すなわちゲノム、エピゲノム、転写産物、タンパク質、代謝物などの情報を網羅的に取得するオミクス解析に空間情報を紐付けた空間オミクス解析による網羅性の大幅な向上です。空間情報を取得する手法は、検出系により分類すると大きく3つのグループに分けられます。検出系別にごく簡単に原理を説明すると、①光学的に検出可能なプローブを使用して光学顕微鏡で直接的に位置情報を取得する、②空間配置を記録したバーコード配列を解析対象分子に付与し、次世代シーケンサーで配列情報を取得後に位置情報を特定する、③情報取得部位を狭い範囲に限定し、走査しながら質量分析器で連続的に解析する、となります。①はゲノム(Oligopaintなど)、転写産物(Xenium、MERFISH、CosMxなど)、タンパク質(CODEX/PhenoCyclerなど)、②はゲノム(Slide-DNA-seqなど)、エピゲノム(spatial-ATAC-seqなど)、転写産物(Visium HD、Stereo-seqなど)、③はタンパク質/糖鎖(IMC、MALDI-MSIなど)、代謝物(MALDI-MSI、SIMSなど)で使用されることが多いです。どの手法も「空間分解能」と「検出感度および網羅性」は本質的にトレードオフの関係にあります。

*()内は代表的な空間解析名もしくは解析プラットフォーム名の例

細胞の状態と空間配置の統合により得られる理解

現在行われている空間オミクス解析の中核を成すのは、転写産物を解析対象分子とする空間トランスクリプトーム解析です。空間トランスクリプトーム解析には大別して、微小領域の転写産物量を計測するシーケンスベース型(スポット型)と、転写産物一分子の位置を計測するイメージングベース型(シングルセル型)の2つのタイプが存在します。イメージングベース型の空間プロテオーム解析がそれに続きます。空間トランスクリプトーム解析における空間情報取得手法の原理や特徴、使い分けの詳細に関しては別の記事でご説明します。空間オミクス解析がもたらした網羅性の向上により、機能分子の網羅的発現情報をもとに、類似した状態にある細胞を推定して分類する事が可能になりました。これにより、細胞の状態と空間配置を紐づける事が可能になり、細胞の状態や機能と、特定の“場”や、近隣の細胞との相互作用との関連を推定するという新たな意義が空間解析にもたらされました。

職人技的な解析からデータ駆動型解析への構造転換

非網羅的な解析の場合、1サンプル当たりでは限られた種類の機能分子しか扱えないため、網羅的解析に類似した解析を行うには、複数のサンプルにまたがって多数の機能分子の情報を取得する必要があります。しかも、別々のサンプルの同じ性質の部位、例えば腫瘍境界部、浸潤先進部といった病理学的、形態学的に判断される部位を見極め、複数サンプルの情報を統合して考察する必要があります。病理学や形態学の知識を持つ研究者には一目で分かることでも、他分野の研究者には、どこの何を見ればよいのか分からない場合があります。そのような、病理学的、形態学的な知識と経験を有する研究者に依存していた部分が、網羅的な解析では情報科学的な手法で他の分野の研究者にも扱えるようになってきました。

まとめ

分子の機能を知りたいというモチベーションの研究では、高い空間分解能を持つものの網羅性は限られているタイプの空間解析が当分の間は依然として主流であり続けるであろうと思います。それに対して、細胞の状態、機能、相互作用を知りたいというモチベーションの研究では、空間分解能は1細胞レベル程度であっても高い網羅性を持つタイプの空間解析(空間オミクス解析)の占める地位が今後急速に拡大していくものと思われます。

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