誘導法の違いによる人工多能性幹細胞(iPS細胞)誘導経路の検証
分化した体細胞に、多能性維持に必要な遺伝子群を導入することなどにより、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を誘導できる体細胞リプログラミングが知られています。Mouse embryonic fibroblast (MEF)細胞にOct4, Sox2, Klf4を導入して体細胞リプログラミングを誘導した群(OSK群)と、化学的誘導処理によってリプログラミングを誘導した群(CIP群)のシングルセルトランスクリプトームデータを使用して、多能性幹細胞誘導過程の擬時間解析(pseudotime解析)を行いました。
細胞のクラスタリング結果 (24,000 cells, 2群、各群4時点, UMAP)
細胞のクラスタリング結果 (24,000 cells, 2群、各群4時点, UMAP)
MEF細胞にOct4, Sox2, Klf4を導入して0, 3, 6, 8日後、および、化学的誘導処理を行って0, 3, 6, 9日後に取得されたデータを統合してクラスタリングした結果をUMAPにより二次元上にプロットしました。各検体の細胞数を3,000細胞に統一して解析を行いました。
多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現分布
多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現分布
多能性幹細胞のマーカー遺伝子として知られるNanogとZfp42の発現分布を図示しました。一部の共通する細胞集団でNanogとZfp42の発現が見られました。
多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベル
多能性幹細胞マーカー遺伝子の発現レベル
各遺伝子の発現レベルをバイオリンプロットで図示しました。縦軸はそれぞれの遺伝子発現量、横軸は各クラスタを示します。クラスタ13にはNanogおよびZfp42の特徴的な発現が見られ、多能性幹細胞様の細胞と推定されました。
3次元プロット上でのcell lineage推定結果
3次元プロット上でのcell lineage推定結果
パネル右上に示したクラスタリング結果の赤い円で囲んだクラスタを選択し、diffusion mapにより3次元上にプロットしました。 各クラスタ番号と細胞をプロットした色はパネル右上と対応しています。 3次元プロット上の細胞について、発現プロファイルの類似度からcell lineage(細胞系譜)を推定し、多能性幹細胞を含む細胞系譜を黒い線で表示しました。
3次元プロット上の細胞分布(検体別)
3次元プロット上の細胞分布(検体別)
3次元上にプロットした細胞分布を検体別に表示しました。OSK群では時間経過により、まず多能性幹細胞の前駆細胞(青丸内)が誘導され、さらに多能性幹細胞(赤丸内)が誘導されたのに対し、CIP群ではそれらの細胞の誘導は確認されませんでした。
各クラスタの細胞構成比(検体別)
各クラスタの細胞構成比(検体別)
多能性幹細胞に至る系譜として推定された系譜上の各クラスタ(3>5>8>2>9>0>13)の細胞構成比を検体別に表示しました。縦軸は各検体の全細胞数を1とした時の各細胞タイプの割合を示し、横軸はクラスタ番号を示します。OSK群では誘導後の時間経過に伴ってクラスタ0、13に含まれる細胞が増加するのに対し、CIP群では増加が全く見られませんでした。この実験条件下では化学的な刺激による多能性幹細胞の誘導は起こらなかった可能性が考えられました。
多能性誘導経路推定(trajectory analysis)結果
多能性誘導経路推定(trajectory analysis)結果
細胞を二次元上にプロットし、多能性誘導経路の推定を行いました。多能性幹細胞に向かう経路を赤色の矢印で示しました。
擬時間経過による遺伝子発現変化(群別)
擬時間経過による遺伝子発現変化(群別)
推定した経路上の各細胞の擬時間(pseudotime)と遺伝子発現量より、擬時間経過に伴う遺伝子発現変化を推定し群別にプロットしました。縦軸は遺伝子発現量、横軸は擬時間経過を示し、図中の各点は個々の細胞を示します。OSK群では擬時間経過に従って、中胚葉に特徴的に発現するMest (Mesoderm Specific Transcript)の発現が減少し、多能性幹細胞のマーカー遺伝子として知られるNanogおよびZfp42の発現上昇が見られました。一方、CIP群では擬時間が経過してもMestの発現が維持されており、 NanogおよびZfp42の発現上昇は見られませんでした。この条件下では、化学的な誘導による多能性幹細胞の誘導は見られず、中胚葉様の性質を維持していたと考えられます。
