抗がん剤短期及び長期抵抗性獲得によるがん微小環境(niche)の違い

EGF受容体変異を有する非小細胞肺がんの治療にはEGF受容体阻害剤が有効ですが、最終的には治療抵抗性が獲得されます。一部の患者では短期間に治療抵抗性が獲得されますが、抵抗性の獲得機構の詳細は不明です。 非小細胞肺がん組織の空間トランスクリプトームデータ(Visium HDデータ*2)を使用し、EGF受容体阻害剤治療後に短期に抵抗性を獲得したがん(ER:early resistance)と抵抗性獲得に長期間を要したがん(LR:long term resistance)でニッチの特徴を比較しました。

非小細胞肺がんに含まれる細胞タイプ

非小細胞肺がんに含まれる細胞タイプ

非小細胞肺がんに含まれる細胞タイプ

短期間に薬剤抵抗性を獲得したがん(ER:early resistance)と長期間を要したがん(LR:long term resistance)の薬剤投与前のVisium HDデータから細胞ごとの発現プロファイルを推定した後、以降の解析を実施しました。発現プロファイルの類似度に基づいて細胞をクラスタリングした結果をUMAPで示しました(左図) 。各細胞タイプに特徴的な遺伝子の発現をバイオリンプロットで示しました(右図) 。縦軸は遺伝子、横軸は細胞タイプを示します。がん細胞は3種類(Tc_SCG3A1 : SCG3A1高発現腫瘍細胞、Tc_TMSB4X : TMSB4X高発現腫瘍細胞、Tc_MMP7:MMP7高発現腫瘍細胞)に分類されました。

各ニッチを構成する細胞タイプの割合

各ニッチを構成する細胞タイプの割合

各ニッチを構成する細胞タイプの割合

非小細胞肺がんを構成する細胞の空間的な分布からニッチを同定しました。グラフの縦軸は各ニッチを構成する細胞タイプの割合を合計1として表示し、横軸はニッチを示しています。3種類のがん細胞のそれぞれを含むCN2(Tc_MMP)、CN3(Tc_TMSB)、CN5(Tc_SCGB)など6種類のニッチに分類されました。

短期耐性獲得例(ER)と長期耐性獲得例(LR)における各ニッチの割合と分布

短期耐性獲得例(ER)と長期耐性獲得例(LR)における各ニッチの割合と分布

短期耐性獲得例(ER)と長期耐性獲得例(LR)における各ニッチの割合と分布

ERおよびLRそれぞれのがん組織におけるニッチの空間分布を示しました。図中のそれぞれの点は細胞を示しており、ニッチごとに色分け表示しました。 ERおよびLRのニッチの構成比をグラフに示しました(右図) 。グラフの縦軸はそれぞれのがん組織を構成するニッチの割合を合計1として表示し、横軸はERおよびLRを示します。ERでは、MMP7およびTMSB4Xを高発現するがん細胞を多く含むCN2、CN3の割合が高くなっていました。

組織におけるニッチと細胞タイプの分布

組織におけるニッチと細胞タイプの分布

組織におけるニッチと細胞タイプの分布

がん組織におけるニッチの空間分布(上段)と、各ニッチに含まれる細胞タイプの空間分布(下段)を示しました。図中のそれぞれの点は細胞を示しており、ニッチおよび細胞タイプごとに色分け表示しました。ニッチの分布からは、領域ごとの特徴をより俯瞰して把握することが可能です。

マクロファージにおけるニッチによる遺伝子発現の差

マクロファージにおけるニッチによる遺伝子発現の差

マクロファージにおけるニッチによる遺伝子発現の差

TAM (tumor associated macrophage) で発現が増加するCTSL、およびマクロファージに特徴的に発現するMSR1の発現量を示しました(左図)。マクロファージを比較的多く含むCN3、CN4、CN5について、マクロファージにおけるMSR1、CTSLの発現量をニッチごとに示しました(右図)。ERに多く見られるCN3ではCTSLの発現量が増加しているのに対し、正常組織と考えられるCN4、LRに多く見られるCN5ではCTSLの発現量増加は見られませんでした。ERの細胞ニッチは、薬剤投与前の時点で既にマクロファージに対する影響が異なる可能性が考えられました。