小腸の組織常在型メモリーT細胞分化の局所的制御
マウスの小腸急性感染モデルで取得したシングルセル空間トランスクリプトームデータ(Xenium*1データ)を使用し、LCMV感染前後における前駆細胞様TRM細胞の細胞数変化、TRM細胞の分化と遊走に関連するケモカインの局所的発現変化を検出しました。TRM(Tissue-Resident Memory T, 組織常在メモリーT)細胞:リンパ系以外の組織に常在するCD8+T細胞。
小腸絨毛に存在する腸管上皮細胞に特徴的な遺伝子の発現分布
小腸絨毛に存在する腸管上皮細胞に特徴的な遺伝子の発現分布
小腸内腔には絨毛(villi)と、絨毛間のくぼみに位置する陰窩(crypt)と呼ばれる構造が存在します。小腸絨毛に存在する細胞タイプに特徴的に発現する遺伝子の空間分布を、遺伝子毎に各色の点で示しました。
小腸絨毛に存在する腸管上皮細胞に特徴的な遺伝子の発現分布(細胞毎の発現量)
小腸絨毛に存在する腸管上皮細胞に特徴的な遺伝子の発現分布(細胞毎の発現量)
前図で示した各遺伝子の発現分布とそれに紐づく発現量を基に、個々の遺伝子の細胞毎の発現量をヒートマップで表示しました。各パネルの上部に細胞タイプ(遺伝子名)を示しました。絨毛先端部には分化した吸収上皮に特徴的なClca4aを発現する細胞(上段)が分布し、陰窩周辺部には増殖中の細胞に特徴的なTop2aを発現する幹細胞およびTransit amplifying(TA)細胞(中段)が分布していました。絨毛には吸収上皮の他に、Muc2を発現する杯細胞(下段)や、Chgbを発現する少数の腸管内分泌細胞(下段)の分布が見られました。
小腸絨毛に存在する免疫細胞に特徴的な遺伝子の発現分布(細胞毎の発現量)
小腸絨毛に存在する免疫細胞に特徴的な遺伝子の発現分布(細胞毎の発現量)
免疫細胞に特徴的な遺伝子の細胞毎の発現量をヒートマップで示しました。前駆細胞様TRM細胞に特徴的なTcf7を発現するT細胞(中段)は絨毛基底部に分布し、分化したTRM細胞に特徴的なGzmaを発現するT細胞(中段)は絨毛先端部側に分布していました。絨毛内部全体にはマクロファージや少数のB細胞(下段)が分布していました。
急性感染による「TRM細胞の分化・遊走に関連するCxcl10」の発現変化
急性感染による「TRM細胞の分化・遊走に関連するCxcl10」の発現変化
小腸急性感染モデルを用いて、TRM細胞の分化と遊走に関連するCxcl10の発現分布を、感染前(左列)および感染6日後(右列)で比較しました。Cxcl10(上段)は感染により筋層で発現増加が見られ、一方、一部の線維芽細胞で発現が見られるC3(下段)は、感染の有無に関わらず筋層で発現していました。感染により、筋層に分布するC3陽性線維芽細胞でのCxcl10の発現増加が示唆されました。
急性感染によるCxcl10発現部位における前駆細胞様TRM細胞の細胞数変化
急性感染によるCxcl10発現部位における前駆細胞様TRM細胞の細胞数変化
感染前(左列)および感染6日後(右列)の小腸絨毛における、前駆細胞様TRM細胞(上段)および分化したTRM細胞(下段)の分布を示しました。感染6日後には前駆細胞様TRM細胞の絨毛基底部での増加が見られました。筋層でのCxcl10の発現と絨毛基底部での前駆細胞様TRM細胞の増加は一過性で、感染後の時間経過により消失しました。一方、Cxcl10の受容体であるCxcr3をノックアウトしたマウスでは、前駆細胞様TRM細胞の増加が抑制されました。
シングルセル空間トランスクリプトーム解析はこのように、多様な細胞や遺伝子発現が関与する生命現象に対して、多種多様な遺伝子の空間情報を同時に解析する事を可能にしました。通常のシングルセル解析などの、空間情報を含まない網羅的な遺伝子発現解析結果に基づいて空間情報を取得し解釈することで、生命現象のより高度な理解が得られることが期待できます。
