疲弊したCAR-T細胞で活性化する転写因子の推定

CAR-T細胞を治療に用いた場合の課題の一つが、T細胞が恒常的に活性化することによってがん細胞を攻撃できなくなったり増殖が抑制されたりするT細胞の疲弊という現象です。CAR-T療法実施後の患者から取得されたCAR-T細胞のシングルセル解析データから、疲弊したT細胞を同定し活性化している転写因子を推定しました。

CAR-T細胞のクラスタリング結果(11,464 cells, 2群、n=3, UMAP)

CAR-T細胞のクラスタリング結果(11,464 cells, 2群、n=3, UMAP)

CAR-T細胞のクラスタリング結果(11,464 cells, 2群、n=3, UMAP) CAR-T細胞のクラスタリング結果(11,464 cells, 2群、n=3, UMAP)

患者に投与したCAR-T細胞(投与群)と、投与7日後に患者末梢血から回収したCAR-T細胞(回収群)のscRNA-seqデータを統合し、クラスタリング結果を二次元上にプロットしました。全細胞のクラスタリング結果からT細胞のみを選択して再クラスタリングを行った結果を示します。

CAR-T細胞のクラスタリング結果(群ごと)

CAR-T細胞のクラスタリング結果(群ごと)

CAR-T細胞のクラスタリング結果(群ごと) CAR-T細胞のクラスタリング結果(群ごと)

クラスタリング結果を投与群(左)と回収群(右)に分けて表示しました。投与群と回収群ではT細胞集団の構成に顕著な違いが見られました。

T細胞サブセットに特徴的な遺伝子の発現分布

T細胞サブセットに特徴的な遺伝子の発現分布

T細胞サブセットに特徴的な遺伝子の発現分布 T細胞サブセットに特徴的な遺伝子の発現分布

T細胞サブセットに特徴的な遺伝子の発現分布を示しました。投与群(左)に比べ、回収群(右)ではCD8 T細胞の顕著な増加が見られました。さらに回収群では、GZMA遺伝子を発現する細胞障害活性を持つとみられるCD4 T細胞が顕著に増加しており、確かにT細胞サブセットの構成が大きく変化していました。

疲弊したT細胞に特徴的な遺伝子群の発現分布

疲弊したT細胞に特徴的な遺伝子群の発現分布

疲弊したT細胞に特徴的な遺伝子群の発現分布 疲弊したT細胞に特徴的な遺伝子群の発現分布

疲弊したT細胞に特徴的な遺伝子群(82遺伝子)の発現をスコアリングし、群ごとに表示しました。スコアが高い細胞を赤色で示しています。回収群では高いスコアを示す疲弊したCD8 T細胞が多く見られました。

各T細胞サブセットで活性化している転写因子の推定

各T細胞サブセットで活性化している転写因子の推定

各T細胞サブセットで活性化している転写因子の推定 各T細胞サブセットで活性化している転写因子の推定

転写因子と共発現し転写因子の結合モチーフを有する遺伝子を転写因子の標的遺伝子として抽出し、その標的遺伝子の発現量から各T細胞サブセット(各クラスタ)で活性化している転写因子の推定を行いました。推定された転写因子活性をヒートマップで表示し、転写活性が高い場合を赤色、低い場合を青色で示しました。縦軸は転写因子、横軸は各T細胞サブセット(クラスタ番号)を示します。疲弊したT細胞で活性化する転写因子として知られるEOMESの転写活性が、疲弊したCD8 T細胞(クラスタ10、赤枠内)で高くなっています。

推定された転写因子の活性と発現分布

推定された転写因子EOMESの活性分布

推定された転写因子の活性と発現分布 推定された転写因子の活性と発現分布

推定されたEOMESの転写活性(上段)と発現量(下段)を、群ごとに二次元に表示しました。転写活性及び発現量が高い細胞を赤色で示します。回収群では疲弊したCD8 T細胞(赤丸内)が多く、かつEOMESの転写活性が高いと推定されました。転写活性と発現量が対応しない領域が見られることから、発現量の制御以外に活性調節を受けていることが示唆されます。遺伝子の発現情報に加えて、当解析例で実施した転写因子活性を推定する解析や、シングルセルATAC-seqのようにエピジェネティックな状態を推定する解析を行うことで、生体内の現象をより詳細かつ高い信頼性で理解することが可能になると期待されます。